第7回 西暦2050
イタリア、ドイツそしてフランスまでもが苦杯をなめ、大混戦となったEuro2004。熱戦が繰り広げられる、ポルトガルのリスボンで6月27日からもう一つの国際的なサッカー大会が始まる。第8回ロボカップ2004、自律型ロボットによるサッカーの世界大会である。ここで自律型というのは、自分の周辺環境を認識し、その環境に合わせて最適な意思決定を行うことを指す。
このロボカップ、それ自体が大変ユニークな活動であるため、ロボットファンならずとも多くの人たちの興味を呼び、コンテンツとしての可能性も大いに秘めているが、表面的に見えてくる部分よりもはるかに多くの極めて重要な知見をロボカップは我々に与えてくれる。
ロボコンという名で知られる、ロボットによる競技大会の盛んな日本では、このロボカップもロボコンの一種であると勘違いされ、ロボカップと聞くと多くの人は、「あ、それ知ってる。みんなでロボットを持ち寄って競争するあれでしょ?NHKでやってる。。。」となってしまう。しかし、両者は言うまでもなく、全くの別物である。まず、ロボカップはれっきとした研究活動であり、競技の形態をとっているのは、この新しい研究推進の仕組みをうまく推進していくための戦略的な施策なのである。研究活動であるため、多くの参加者がロボティクスや人工知能領域の研究者である。また、研究と言うくらいだから、まだ誰も実現したことのないチャレンジングな研究テーマを追い求めている。たとえば、完全自律の実現、すなわち機械が環境の変化に対応して最適な判断をくだし、それに基づいた行動をするという研究テーマなどである。競技大会に参加した研究者は同時に研究発表も原則として義務づけられているなど、国際学会の側面も兼ね備えている。
さて、このロボカップについて、今回は、ロボカップの仕組みやその活動の概要を紹介し、これから何回かにわたって、この新しい仕組みから現在のビジネスの仕組みに反映できることを取り出してみたい。また、その中で、ネットワークジェネレーターがどのように関わってくるのかをお話ししようと思う。
ロボカップは「2050年までに人間のサッカー世界チャンピオンにFIFAのルールの下で勝つことができる完全自律型ヒューマノイドロボットのチームをつくる」ことをゴールとする、自発的研究者ネットワークによる国際的な研究プロジェクトである。1995年に日本の研究者数名(ソニーCSL北野宏明氏、大阪大学浅田稔氏ら)によって構想が提案され、1997年から毎年、ロボカップ世界大会と称する競技会を世界各地で開催している。名古屋、パリ、ストックホルム、メルボルン、シアトル、福岡、パドバ、リスボンと今年で第8回となる大会が、来年は大阪市で開催される。1997年当初、11カ国からわずか40研究グループが参加したにすぎなかった大会は、現在では30カ国300グループ以上に増え、50年後のゴールを目指す研究者は世界で3000人を超えている。1998年には、この国際的な研究プロジェクトの本部The RoboCup FederationをスイスにNPO法人として登記し、この本部の下に活動の盛んな国や地域の活動の運営を行うNational Committeeを設けている。私は、1999年からこのロボカップのマネジメントを半ばボランティアとして引き受けており、同時にこの仕組み自体を技術経営の研究テーマとしている。
ロボカップに大変大きな可能性を感じるのは、世界中のさまざまな領域の専門家が競争と協調を繰り返しながら、自発的にゴールに向かって行く点である。参加してくる研究者は、その研究費を自らの努力で獲得し、年に一度の世界大会の場で、自らの研究の発表をするだけではなく、相互に評価し合い、知識を吸収しあい、場合によっては、共同研究をスタートさせる。私は、このようなスタイルで研究者同士が交わることにより想像以上の量と質の知識が創出される現場を目の当たりにしている。この活動がこのように発展していくのは、間違いなく情報技術と情報インフラ、特にインターネットの普及、発展によるところが大きいことは確かで、その点からも、このプロセスは前号のテーマのLinuxにも相通じるところがある。一方、ロボカップはLinuxと異なり、参加者が共有する明示的なゴールを持っており、また、フェース トゥ フェースの知識交流の場が重要な役割を担っている点、さらには、ロボカップのコミュニティを通して社会や産業界と協働する意図を持っている点など、より進化したシステムと考えることができる。
次号はロボカップの掲げるゴールからゴール・ビジョンの設定方法とその重要性についてお話ししようと思う。